News 新着情報

チームビルディングに大苦戦!他者に頼る難しさが教えてくれた、事業の原点と成長のヒント

自己紹介・会社紹介
合同会社Emmagination
代表 大川 貴世美さん

合同会社Emmaginationは、企業向けにコミュニケーションをテーマとした研修プログラムを提供する研修事業者です。アンコンシャスバイアスやハラスメントといった組織内課題に対応したティーチングを通じて、職場の心理的安全性の向上を支援しています。あわせて、セルフコーチングからプロ人材の育成までをカバーするコーチングスクールも運営。受講者の課題解決力や対人関係力の底上げを図る中で、多様な人材が活躍できる職場環境づくりに貢献しています。


合同会社Emmagination(以下、合同会社エマジネーション)の代表・大川貴世美さんは、「女性だから」「母親だから」といった理由でチャレンジを制限されがちな社会のあり方に課題を感じ、誰もが等しく挑戦できる環境づくりを目指して活動されています。県北BCPへの参加は、そうした課題意識をもとに、自身で温めてきたプロダクト「うずまきタスク」に他者の視点を取り入れ、形にしていく貴重な半年間となりました。

チームビルディングの面では多くの壁に直面し、アウトプットに迷いや混乱もあったそうですが、その過程で「自分にはできないことがある」と気づけたことが、経営者として大きな転機となったと振り返ります。人の力を借りること、感謝をもって受け取ること。その姿勢が、現在の事業運営やプロダクト開発にも深く根づいているといいます。

今回は、県北BCPへの参加を通じて得られた気づきや変化、他のリーダーとの出会いがどのように事業に活きているのかについて、お話を伺いました。


県北BCPに参加した理由
・「環境による機会損失をなくしたい」という社会課題への強い問題意識があった
・一人で完結する仕事スタイルから「チームで動く」ことに可能性を感じた
・自身の経験や特性から生まれた想いを大きなテーマとして発信したいと考えた

県北BCPに参加した結果
・チームビルディングに失敗した経験を通じて、他者に頼る重要性に気づいた
・ターゲットの再定義とプロダクトの方向性の明確化につながった
・自己理解が深まり、失敗を糧に挑戦を続ける姿勢が育まれた


 

環境による機会損失をなくしたい!社会構造への課題意識を原動力に参加

堀下:県北BCPへの参加を決めた背景と、当時抱えていた想いについて教えてください。

大川さん:最初は県北BCPの運営事務局の方から「県北BCPというアイデアソンやるからエントリーして欲しい」と言われたので軽いノリで参加を決めました。ただ、エントリーのきっかけはノリでしたが、本エントリー前にしっかりと県北BCPの説明をしてもらい、自分の会社の課題を参加者と一緒に考えていく取り組みだと理解したうえで、納得して参加しています。

私は県北BCPに参加する前までは、すべて一人で完結させるスタイルで仕事をしてきました。他者と協力して何かをするという経験がなかったので、「チームで動く」という点に可能性を感じたのも大きかったです。

一方で、私が仕事だけではなく、生きていくうえで感じていたのは「環境による機会損失をなくしたい」という思いでした。私は日立市で生まれ育ち、結婚から離婚そして起業とすべて地元で経験してきました。その中で「女性だから」「母親だから」「シングルマザーだから」といった理由で、自分のやりたいことが制限される場面が本当に多くありました。さらに、私は発達障害(ADHD)を抱えていることもあり、どうしてもうまくいかないことが多かった。何かを成し遂げようとしても、環境や特性が壁になってしまうような状況をどうにかしたい、社会の構造自体を変えていきたいという強い想いがありました。

堀下:そうした想いを抱えながら、県北BCPにはどのような期待を持って参加されたのでしょうか?

大川さん:県北BCPでは「どうせ一人ではできないことだからこそ、あえて大きなテーマを掲げてみよう」という想いで参加しました。そのような背景もあり、自分自身の経験から来る想いを伝えようと第一回の課題発表では「環境による機会損失をなくすサービスをつくりたい」と語りました。ビッグマウスかもしれないけれど、せっかくチームでやるなら、自分一人では実現が難しいことを出してみようと考えたんです。

 

チームビルディングに大失敗!それでも得られた事業の礎

堀下:県北BCPでは、どのようなプロダクトに取り組み、チーム活動はどう進んでいったのかお教えください。

大川さん:私が取り組んでいたのは「うずまきタスク」というタスク管理ツールです。ToDoを渦巻き状に書き出すことで頭の中を整理し、マルチタスクをシングルタスクに落とし込むというものでした。このプロダクトは県北BCPに参加する前から作っていて、私自身が日常的に使っていたんです。このうずまきタスクをチームの中で意見をもらってブラッシュアップしたいと思い、テーマとして持ち込みました。

しかし結果として、チームビルディングは正直うまくいきませんでした。メンバーが固定されず毎回入れ替わり、話がまとまらないまま何度も同じ議論を繰り返していました。私は誰かに頼ることやお願いすることが苦手で、出された意見をすべて自分で取り込もうとしてしまい、結局キャパオーバーになって何も前に進まないという状況になってしまったのです。

堀下:チームビルディングに失敗したと振り返られましたが、そのような状況の中で、プロダクトの方向性はどのように整理されていったのでしょうか?

大川さん:当初は「誰のためのツールなのか」「何に使えるのか」が曖昧で、チームからもさまざまな意見が出たことでかえって混乱していました。しかし、何度も同じ指摘が出る中で、「誰に届けるべきか」が不明瞭なことに自分自身が気づかされました。そこから一度立ち止まって原点に戻り、うずまきタスクのターゲットを考え直しました。

その結果、私と同じような発達障害を抱える人や、時間管理が苦手な女性のフリーランスに使ってもらいたいツールであると再定義することができました。また、県北BCPを通じて企業や学校で試験的に使ってもらう機会もあり、活用の可能性を体感できたことで、「企業研修」「ノート+ワークショップ」「ブラウザサービス」の三つを軸にしてアプローチするプロダクトにしようと方向性も定まった感じです。

しかし、こちらも結果としてはチームで精度を上げていったのではなく、私の個人プレイで決めていってしまったので、県北BCPの意図とは外れてしまったのではないかと思います。

堀下:ご自身が当初思い描いていたのとは違う結果になってしまったのではないかと思います。県北BCPでのこの経験は、現在の事業にどのように影響していますか?

大川さん:県北BCPでチームビルディングができなかったという大きな失敗をした反省点が、今の事業の基盤になっていると感じています。あのとき、人の力を借りることができなかった自分を知ったことで、今の事業にしっかりと生かされていると感じています。自分の限界を知り、他者に頼ることの重要性に気づけたのは大きかったです。あの場で失敗させてもらえたからこそ、事業の中で本当に致命的な失敗をせずにすんでいると思います。県北BCPに参加してよかったと、心から感じています。

 

一人で悩む起業家に届けたい!失敗が糧になる県北BCPの環境と支援

堀下:チームでの活動は難しさもあったとのことですが、同期のリーダーとはどのような関わりがあったのでしょうか?

大川さん:他のリーダーの方々とは、とても仲良くなることができました。特に、いばそう企画の林さんや菓匠風月の藤田さんのように、自分で決めたことは自分で引っ張っていくタイプの方とは、自然と気が合ったように思います。

また、県北BCPのリーダーの中で特に印象的だったのは、八千代商事の福地美喜さんの姿勢です。良い意味で人に頼るのがとても上手な方で、素直に「できない」と言える美喜さんを見て目から鱗でした。以前の私は「女性だからこそ甘えないように」と自分を追い込んでいましたが、美喜さんは私とは真逆で「できない」としっかりと伝えることで、周りが自然と助けたくなる空気が生まれていたと感じます。県北BCPを通じて、自己理解を深めながら、相手の強みと自分の弱みを補い合う関係性を学べたのは大きな財産です。

堀下:県北BCPにはビジネスに精通したメンターも揃っています。メンターの方々とはどのようなアドバイスをもらったのでしょうか?

大川さん:メンターの皆さんにも本当によくしていただきました。最終報告会で「うずまきタスクをブラウザ化します」という発表をしましたが、勢いで言っただけで根拠も実績もありませんでした。しかし、「プロダクトを使ってもらった人を幸せにできるならやるべきだよね」とメンターの皆様が背中を押してくださったんです。このときメンターの皆様に後押しされたのもあり、実はうずまきタスクのデモページが完成しています。うずまきタスクのノート版に描いてある、渦巻きの絵をそのまま再現したようなシンプルな構成ですが、スマホやPCからも使えるようになっています。少しずつですが、確実に前に進めています。

堀下:着実にプロダクト開発が進んでいるのは凄いですね!では最後に、県北BCPにどのような課題や想いを抱えている企業に参加してもらいたいと思うかを教えてください。

大川さん:一人で頑張っている起業家さんにこそ、ぜひ参加してほしいと思います。私自身、チームビルディングに失敗して、本当にうまくいかなかったんですが、だからこそ言えることがあります。失敗しても大丈夫だし、失敗から学べることがたくさんあるんです。

とくに「私なんかが出ていいのかな」「まだ形になっていないし」と不安に思っている方にこそおすすめしたいです。むしろそういう人ほど、参加することで自分の弱みが強みに変わっていったり、人に頼ることの大切さに気づけたりするからです。

私も実際に、「自分ではできない」と思っていたことをチームの力で整理してもらい、事業としての輪郭が見えるようになりました。失敗してよかったと思える経験になったので、迷っているなら出たほうがいい、と心から言えます。

 

県北BCP事務局からの振り返り

堀下:大川さんとは県北BCP以前からの知り合いでしたが、今回のプログラムを通じて大きな変化を感じました。本人も語っている通り、チームビルディングや事業成果の面では、期間中に目に見える成功は得られず、ある意味「失敗」だったとも言えます。

県北BCP以前の大川さんであれば、その「失敗」を素直に口に出すのは難しかったでしょう。プライドも高く、経営者としての立場もあったはずです。けれども今では「超ミスったよね」と笑い合える関係性があり、その経験を成長に結びつけているのがはっきりと伝わってきます。

もし本業で同じ失敗をしていたら、実損が出ていたかもしれません。県北BCPという“守られた場”で最大限に失敗できたからこそ、本番で避けるべき落とし穴を回避できたのだと思います。結果的に、大川さんはその経験を通して、ビジネスパーソンとしての選球眼や立ち直る力を育てました。プログラム期間中に成果が出なかったとしても、今ではどんな状況にも対応できるような、たくましさを身につけたように見えます。

だからこそ、当時の仲間やメンターたちも、大川さんを応援し続けているのです。失敗しても、やり直し続ける姿を皆が見てきました。県北BCPは、即時的な成功を保証する場ではなく、長期的に支え合いながら成長していけるコミュニティです。大川さんの経験は後輩たちにも引き継がれ、直接の交流がない次期生の方々にも広く知られる存在になっています。

失敗から学び、それを糧にする。大川さんは、まさに県北BCPが目指す起業家の一つの理想像です。今後も多くのチャレンジャーにとって希望となる存在だと思います。

文・編集:事例のプロ
写真:移住コミュニティ playful 政田 優

 

\やるぜ、県北!みんな、集まれ!/