“応援されるリーダー”が動かす未来!県北BCPが生んだ共感と継続の力でゴルフグリップに革命をおこす

自己紹介・会社紹介
株式会社佐々木製作所
代表取締役 佐々木 謙彦さん
株式会社佐々木製作所は、射出成形技術を活かし、自動車部品を中心とした多品種少量の工業部品を製造するメーカーです。従来は特定取引先からの受託中心でしたが、経営の多角化を図り、自社ブランドのゴルフグリップ「GMASTER GOLF GRIP」を開発。装着のしやすさやロゴカスタム機能など技術的強みを活かし、OEM展開も見据えた自社製品事業に注力しています。
リーマンショックやコロナ禍を経て、「決められたものを、決められた納期でつくる」従来型の受託中心の経営に限界を感じていた佐々木製作所。自社の将来を見据え、オリジナル製品の開発に踏み出す中で、県北BCPアイデアソンに参加されたのが代表の佐々木謙彦さんでした。射出成形の技術を活かしたゴルフグリップ「GMASTER GOLF GRIP」を軸に、異業種・異分野のメンバーとの議論を通じて、製品の方向性を磨いていかれました。
半年間の取り組みは、製品の精度を高めるだけでなく、応援される経営者としての姿勢や、事業を共につくる仲間とのつながりの大切さを再確認する時間にもなったといいます。プログラム終了後も、メンバーとの交流は続いており、県北BCPでの経験が今も事業の中で生き続けているとのことでした。
今回は、県北BCPに参加する前に抱えていた課題や、参加の決め手、そして参加後に得られた変化について、株式会社佐々木製作所 代表取締役の佐々木謙彦さんに、県北BCP運営事務局の堀下との対談形式でお話を伺いました。
県北BCPに参加した理由
・地域の方との交流を通じて県北振興局とつながり、ゴルフグリップの開発をきっかけに参加を勧められた
・地元に対して何もできていなかった自身への反省があり、地域貢献や視野の拡大につながると感じた
・製造業だけでは出せない視点や意見に触れられることへの期待があった
県北BCPに参加した結果
・ユーザーや異業種の視点からの意見で製品の解像度が高まり、方向性がより明確になった
・応援してくれる仲間ができ、今でも製品を購入してくれるなどの継続的な関係が生まれた
・毎月の進捗共有が事業開発の良いプレッシャーとなり、開発スピードの加速につながった
リーマンショックやコロナ禍で痛感した“受け身経営”の限界
堀下: 佐々木製作所の事業内容をお教えください。
佐々木さん: 弊社は、車やバイク、建築用工具などのさまざまな工業用部品を射出成形という技術で作っている企業です。長年、特定の大手企業1社からお仕事をいただいて経営していました。そのため製品開発でなく、決まったものを決まった値段で、決まった納期で作るという、いわゆる下請けの仕事が中心でした。
堀下: どのような課題感があって、新しいチャレンジをされようと思われたのでしょうか?
佐々木さん:リーマンショックや東日本大震災、そして近年のコロナ禍など、経済状況や取引先の状況に大きく左右されることが多く、以前から将来の不安はありました。1社からのみの請負業務でしたので、関係性も考慮して仕事が減ったとしても新しい委託先を探すということもできませんでした。しかし、経営者として従業員の給料を上げたいですし、会社としてやりたいこともありますが、不景気になるとそれすらも難しくなるという状況でした。このままではいけない、自分たちで何か新しいことを始めて、売上を伸ばせるものが欲しいと強く思うようになりました。
「答え合わせ」のような半年間!視点の変化が製品の解像度を高めた
堀下: 県北BCPにはどのようなプロダクトで参加されたのでしょうか?
佐々木さん:ゴルフクラブ用のグリップ「GMASTER GOLF GRIP」で参加しました。先ほどお伝えしましたが、弊社は射出成形を専門としており、その技術を応用して製作しております。製品の特徴として重視したのは、握りやすさや滑りにくさといった使用者側の機能性だけでなく、グリップの交換を行うクラフトマンがシャフトに“入れやすい”設計にするという点です。また、ロゴ部分についても、通常は金型にロゴを凹ませてペイントする必要がありますが、私たちの製品ではロゴ部分をペイントなしでも表現できる独自の構造にしています。これにより、金型の入れ替えをせずに短納期でOEM対応が可能となっている点も、他にはない強みだと考えています。
堀下:元々の技術を生かしたプロダクトを開発されたのですね。御社の強みが生かされたプロダクトがすでにある中で、なぜ県北BCPに参加しようと思われたのかお教えください。
佐々木さん:実は私は、積極的に外部の集まりに参加するタイプではありませんでした。会社としても、看板も営業もいらないような状況でしたので、外部との繋がりをそこまで重視していなかったのです。そのような中で、とあるきっかけで地域の方々とお付き合いする機会が増えてきました。そこでお知り合いになった方経由で県北振興局との繋がりができたんです。ちょうどゴルフグリップの開発を進めている話をしていたところ、「それなら、県北BCPに出てみたら良いのではないか」とお誘いいただいたのが、参加に至った最初のきっかけです。
堀下: アイデアソンに参加されるにあたって、どのような期待感がありましたか?
佐々木さん: 製造業の人間だけでは出てこないような、固定概念を覆すような質問や提案が出てくることへの期待がありました。しかし、最初は募集要項を見た程度で、詳しい内容はよくわかっていませんでした(笑)。ただ、これまで地元に対して何もできていなかった自分が、何かしらの形で貢献できるきっかけになるかもしれない、自分の狭い視野が広がるかもしれない、という思いはうっすらと抱いていました。
堀下: 県北BCPに参加されてみて、製造関係者やゴルフ関係者ではない、いわゆる「チャレンジャー」と呼ばれる一般の方々とチームを組んでアイデアをブラッシュアップしていく中で、どのような気づきや変化がありましたか?
佐々木さん: 我々のチームにはゴルフを純粋に楽しむユーザーの視点を持った方々がいて、「こんなことはできないの?」といった素朴な疑問や、私たちでは思いもよらないアイデアをたくさんいただきました。私たち製造側の人間は、どうしても技術的な側面や既存のやり方に目が向きがちです。しかし、チャレンジャーの皆様にたくさんのご意見をいただき、自分たちの固定観念を打ち破る良い機会になりました。さらに製品について説明する中で、本当にやりたいこと、伝えたいことが明確になっていく感覚もありました。
堀下: 多様な意見に触れることで、ご自身の考えが整理されたり、新たな可能性が見えてきたりしたのですね。
佐々木さん: 県北BCPでのディスカッションは、私たちの仮説に対する「答え合わせ」のようでした。例えば県北BCPのスタート段階ではターゲットが不明瞭だったんです。しかし、その後実際にゴルフ関連のお仕事をされている方に意見をもらい、ターゲットの課題を仮説立てることで、自分たちの中で方向性が定まっていきました。そして、この仮説が本当に正しいのかを、チャレンジャーの方たちとのディスカッションを通して、確実のものへとしていったという感じです。
これは、社内だけでは得られなかった貴重な経験でした。このような濃密な半年間を共に過ごせたことで、私にとってチャレンジャーの皆さんは外部の人たちではなく、一緒に製品を育てていった仲間という感覚になっています。
不安から始まった挑戦!BCPで得た仲間と今も続くつながり

堀下: 県北BCPアイデアソンを振り返ってみて、改めてどのような感想をお持ちでしょうか?
佐々木さん: 第一回目のプログラムに参加したときは、正直不安もありました。他の参加者のテーマが、例えば宇宙関係といったスケールの大きいものばかりで、「射出成形でゴルフグリップ」という自分のテーマが地味すぎて大丈夫なのかな、と(笑)。しかし、チームが決まってからは、その不安も気付いたら消えていました。チームの皆さんが真剣に我々のテーマに向き合ってくれたことで、時間があっという間に過ぎるほどに盛り上がったんです。質問に答えることや、考えを言葉にしていく作業は大変でしたが、そのぶん「頑張ろう」と自然と思えるようになっていきました。
堀下: チャレンジャーの皆さんは、事業開発の一員だと思うくらいの熱量を持っている人が多いのが特徴なので、佐々木さんもその熱さを感じられたのですね。プログラム自体は終了していますが、その後、当時のチャレンジャーの方たちとコミュニケーションなど取られることはあるのでしょうか?
佐々木さん: 当時一緒に活動したチームの方々とは今でも連絡を取っていますし、GMASTER GOLF GRIPを今も応援してくださっている方や、実際にお客様になってくださっている方もいます。また、開発中に出たアイデアの一部は、今も技術的に検討を続けていて、いつか形にしたいと考えているものもあります。そういった意味で、県北BCPでの取り組みは、今でも自分たちの事業の中で生き続けていると感じています。
堀下: アイデアソン期間中、毎月進捗を発表する機会があったと思いますが、それは佐々木さんにとってどのような意味がありましたか?
佐々木さん: 毎月の進捗報告は事業を進めるにあたってとても大きかったですね。自分の会社の事業ですから、自分でやらなければいけないのは当然なんですが、人間なのでたまには怠けたくなる時もあります(笑)。しかし、県北BCPで次の発表があると思うと、「それまでに何とか形にしなきゃ」という思考になり、良い意味でプレッシャーになりました。開発段階でも「県北BCPまでには間に合わせよう」と考えることが多々ありましたね。誰かに強制されるわけではないのですが、定期的に進捗を報告する場があることで、自然と開発のスピードが上がったように思います。
堀下: ありがとうございます。では、最後に県北BCPにどのような課題を抱えている企業に参加してもらいたいと思いますか?
佐々木さん: 私自身、最初は「変わらなきゃいけない」と思いながらも、どうしたらいいか分からず悩んでいました。なので、今まさに悩んでいる企業さんや、「何かやりたいけど一歩が踏み出せない」と思っている方には、ぜひ参加してほしいと思います。
県北BCPは、一見ハードルが高く見えるかもしれませんが、実際は一人で頑張るわけではなく、チームとして同じ方向に向かって動いてくれる仲間が見つかる場所です。自分が踏み出せば、周囲が応援してくれる環境が整っている。それが本当に心強かったです。だからこそ、少しでも悩んでいるなら、思い切って一歩踏み出してほしいです。それが自分自身や会社の変化につながるきっかけになると思います。
県北BCP事務局からの振り返り
堀下:佐々木さんは、本当に素晴らしいリーダーでした。毎回進捗を共有してくださって、たまにケーキを差し入れてくれることもあって(笑)。県北BCPには今まで総勢30名のリーダーが参加されましたが、その中でも佐々木さんの「あり方」は模範的だったと思います。既存事業を抱えながらも、「社員のために、自分の会社のために、新しいことをやらなきゃいけない」と真剣に向き合い、外のコミュニティである県北BCPを上手に活用してくださったと感じています。
チームメンバーも、最初は「佐々木さんを応援したい」と思って関わってくれていましたが、後半には「チーム佐々木製作所」として、みんなが当事者意識を持って動いていました。これは佐々木さんの人柄と、真摯な姿勢があったからこそ生まれたチームの力だと思います。県北BCPが終わってから1年半以上経っても、皆さんが「まだ終わっていない」と自然に思えているのは、その証拠だと感じています。
文・編集:事例のプロ
写真:移住コミュニティ playful 政田 優